なぜ神戸児相は小6女児を追い返したのか?

児童虐待に関するニュースが増えている昨今、またしても理解に苦しむニュースが飛び込んできました。

神戸「こども家庭センター」で、2月10日午前3時頃、助けを求めてきた小学校6年生の女児を当直担当者の男性が「警察に相談するように」と何の対処もせずに追い返したというのです。

ニュースの概要は以下です。

神戸市関係者への取材で発覚した今回の事件ですが、子を持つ親として憤りを抑えられません。

結果的に警察に保護されたからよかったようなものの、一歩間違えればとても悲しい事件に繋がっていた可能性もあります。

本来、子供にとって最後の砦であるはずの「こども家庭センター」がなぜこのような対応をしたのか?どうすれば防げるのか?

「こども家庭センター」の現状も踏まえてまとめてみました。

神戸市「こども家庭センター」について

今回問題となっている神戸市「こども家庭センター」(以下児相)は神戸市に設置された児童相談所で、一般的に各自治体に設置されているものと変わりありません。

事業内容としては、子育て、不登校、虐待、非行、発達障害、里親募集などで、子供に関する全般について相談することが出来ます。

地区によって窓口は異なりますが、休日夜間相談窓口も別途設置されており、基本的に365日24時間体制で運営されてます。

神戸市こども家庭センター

ただ、今回の事件に関して、当直を担当していた男性は児相の正規職員ではありませんでした。

市から委託されたNPO法人「社会還元センターグループわ」から派遣された方だったようです。

社会還元センターグループわ

このNPO法人は主にシルバー人材を嘱託として公共の施設に派遣したり、ボランティア活動などを行っている団体です。

なぜ追い返したのか?

児相のマニュアルでは、夜間や休日に訪問や通報があった場合、当直の担当者は速やかに上長へ報告することが義務付けられています。

ただ、今回担当だった男性は、警察から女児を保護した旨の連絡があるまで上長への報告を怠っていたということです。

その後、児相では今回の案件を『虐待』と判断したそうです。

女児が初め児相を訪れた際、インターホンを押して「家庭でもめ事があり、親から家を追い出された」と助けを求めていたそうですが、それに対し男性担当者は「インターホン越しで比較的年齢が高いように見えた。発言からも緊急性が感じられなかった」とコメントしています。

ただ、それにしても色々とおかしなところが盛りだくさんな言い訳ですね。

まず、インターホン越しにしか会っておらず、直接対面での面談を行っていません。

もちろんカメラ付きのインターホンでしょうが、比較的年齢が高いように見えた、としても少なくとも18歳までは未成年です。

まさか成人女性に見えた、ということもないでしょうし、もし見えていたとすればその男性の感覚を疑います。

また、発言から緊急性が感じられなかった、ということですが、そもそも深夜3時に児相へ訪ねてくる時点で普通ではありません。

その事実に緊急性を感じなかったことが信じられませんし、もし訪ねてきたのが女児ではなかったにしても、助けを求められている以上、この男性がその時点で警察への連絡を行うのが普通の感覚ではないでしょうか。

ここから分かるように、児相における職員に対する日頃の指導やマニュアルの不備といった、ハード面での問題ではなく、担当者の意識の低さや自覚などソフト面での根本的な問題が浮き彫りになります。

子供の将来を守るというモチベーションはないのでしょうか。

児童相談所の現状

厚生労働省のデータによると、平成30年度(2018年度)の全国212か所の児童相談所における虐待の相談件数は合計約16万件だったそうです。

これは前年(2017年度)と比較すると19.5%増加しており、統計を取り始めた平成2年度(1990年度)から毎年増加しています。

それに対し、2018年度では児童福祉士(児童相談の専門家)は3500人程度となっています。

つまり、一人の職員に対し相談件数が全国平均で45件ほどあるということです。
もちろんばらつきもありますので、多いところでは100件を超えるような状況となっています。

相談は1回だけで終わることは少なく、通常は何度も面談を重ねて改善したりしていきます。

一人一人の相談に親身になって対応することを考えると、現状はあまりにもキャパオーバーな状況なのです。

また、児童福祉士は自身の担当案件に関して、勤務時間外についても緊急連絡に対応する必要があります。

虐待の通告だけでなく、警察からの緊急通報、保護した親からのクレームや相談電話も対応していく必要があるのです。

そのため、長時間のサービス残業(休日対応を含む)は、職員の疲弊に直結しているのです。(それが緊急時の初動の遅さに繋がる一因でもあります。)

近年、児童虐待に対する社会的な意識は上昇しているように感じますが、相談に対応する児童福祉士の人数が圧倒的に不足しているのです。

そういった所から、夜間や休日の担当者がNPO法人などに嘱託するケースが増えています。

もちろんそういった方たちに対するマニュアルはありますが、専門家ではないですし、アルバイト感覚で意識を高く対応できる方ばかりではありません。

同様の事件を防ぐためには

今回の事件に際し、児相は「不適切な対応だった」と謝罪し、担当男性を指導した上で、NPO法人「社会還元センターグループわ」に対してもマニュアルに沿った対応の徹底を要請しています。

ただ、前述の児相の現状を鑑みると、こういった付け焼刃の対応では、いずれ同様の事件が起こることは目に見えています。

老人介護の現場と似ているのかもしれませんが、とにかく人材不足であったり、職務に対する意識の低さが目立ちます。

もちろんそういった方ばかりでないのは理解していますが、近年では児相の対応の遅れによる悲惨な事件も散見されます。

公的な施設である以上、個人や施設単位での対策には限界があり、国や県、市といった行政主導で、補助などを含む法整備を進め児相の環境を改善していくことが必要不可欠に感じます。

子供の将来を守る、そういったごく当たり前な感覚を持って職務に当たることのできる人材を揃えることも必要です。

子供が関わる悲惨な事件が少しでも減るように国全体として取り組んでいって欲しいと思います。

もちろんそういった対応だけで全てがうまくいくわけではありません。 

私たち一人一人が、自分の目の届く範囲だけでも意識していくことが必要です。